2025年9月度QPI(確報)
物価上昇は落ち着きつつあるも、手取り額で見る実質賃金は未だマイナス
株式会社ペイロールと株式会社QUICKが共同で開発した新しい賃金指標「QPI(QUICKペイロール賃金インデックス)」に関しまして、2025年9月度のQPI確報、QPI月次レポートを公表いたします。
賃上げは続いているものの、手取り額の上昇率は物価の上昇に追いついていないことが明らかになりました。所定内給与は、物価上昇が落ち着いたこともありそれを上回る上昇率を記録しました。継続的な賃上げが定着しつつあることが見えてきます。可処分所得は、改善傾向が続くものの未だ物価上昇率を下回っており、家計が負担を感じる状況は続きます。
| 2025年9月度 | 2025年8月度 | |
| 所定内給与QPI | +3.16% | +3.05% |
| 可処分所得QPI | +2.23% | +2.05% |
| 地方税QPI | +1.77% | +1.97% |
| 所得税QPI | +20.86% | +29.29% |
| 社会保険料QPI | +2.42% | +2.15% |
※詳細は以下にございます、QPI月次レポートをご参照ください。
※数値は四捨五入済みのため、前月からの差が記載されている数値の引き算と一致しない場合があります。
※分析に用いたデータは、契約にて同意いただいたお客様のみを対象とし、個人・個社が特定されないようにした上で利用しております。
2025年10月度データの速報値の公開は2025年11月12日(水)、確報値の公開は2025年11月17日(月)を予定しています。
株式会社ペイロールについて
1989年4月1日設立。創業以来、主に大手企業を対象として給与計算業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を提供しており、260社112万人(2024年3月末時点)の給与計算業務を受託しています。ペイロールの汎用型給与計算サービス「HR BPaaS(エイチアールビーパース)」は、独自開発したクラウド人事給与ソフトと給与計算BPOを統合したサービスで、お客様固有の複雑な給与計算ロジックに対応しつつ、全てのお客様で共通する業務の標準化を推し進めることで、高い柔軟性と拡張性を併せ持っているところが特徴です。
労働人口が不足していく日本において、ペイロールは、人事部が抱える専門性の高いオペレーション業務を担うソフトインフラ企業となり、人事部がより戦略的な業務に注力できる環境を支えます。
【お問い合わせ窓口】
株式会社ペイロール 社長室
Mail: qpi_analysis@payroll.co.jp
TEL: 03-5520-1403
QPI月次レポート(2025年9月)
概要
企業の安定的な賃上げは継続しており、所定内給与は前年同月比で3%台の伸びを示している。物価上昇が鈍っており、所定内給与から見た実質的な賃金がプラスになっている。家計の手取りについては、名目上は2%台前半の上昇率を記録したが、物価高や社会保険料の負担増を考慮すると、実質的には目減りが続いている。引き続き「賃上げはあっても生活が楽にならない」という家計にとって厳しい状況が続いている。その裏には、社会保険料の負担増などの構造的な問題が原因となっており、この構造的な問題を解決しなければ個人消費の回復と経済の好循環を実現するのは難しいだろう。
実質プラスに転じた給与、しかし官民統計で異なる見方
9月度の所定内給与QPIは+3.16%となり、前月の+3.05%からさらに加速した。8月度のレポートで指摘されたように、7月に一時的に伸びが鈍化したものの、2ヶ月連続で3%を超える高い水準が継続しており、企業の賃上げの流れが定着しつつあることが示唆された。

消費者物価指数(総合)は前年同月比で+2.7%と、物価上昇は続いているものの2024年12月以降続いた3%以上の物価上昇が鈍化し始めた状況にあるものと考えられる。「所定内給与」という観点では、名目的にも実質的にも賃上げが実現されつつあると言えるだろう。
しかし、毎月勤労統計調査では、QPIとは異なり厳しい結果が出ている。現金給与総額の8月速報値では前年同月比+1.5%、実質-1.4%という低い水準に留まっており、2025年1月以降継続して実質賃金はマイナス圏に落ち込んでいる。調査対象や集計方法が異なることや、当レポート執筆時点で9月結果が公開されていないことから単純な比較はできないが、注視していく必要があるだろう。
実質賃金プラスの裏で続く、家計の静かな重荷
では、「所定内給与」の観点で実質賃金がプラスに転じたにもかかわらず、なぜ生活実感の改善は鈍いのか。その答えは、可処分所得QPIの推移にある。可処分所得QPIは、2025年7月に-1.52%とマイナスに落ち込んだ後、8月に+2.05%、9月に+2.23%と2ヶ月連続で改善した。この回復の背景には、税負担の変動が大きく影響している。

2024年6月の定額減税の影響で、その反動が2025年の税額を前年比で大きく押し上げてきた。特に所得税QPIは7月に+46.50%という驚異的な伸びを示し、可処分所得を直接的に押し下げた。しかし、この反動増の影響は月を追うごとに薄れ、9月には+20.86%まで伸びが鈍化。この税負担の伸びの鎮静化が、可処分所得をプラス圏に押し戻す最大の要因となった。
一方で、より構造的な問題として社会保険料QPIの上昇が続く。社会保険料は、7月の+1.81%、8月の+2.15%から、9月には+2.42%へと着実に伸びを加速させている。これは賃上げに連動して負担が増える制度的要因であり、税金のような一時的な変動要因とは異なり、恒常的に手取り額を抑制する圧力として機能し続けている。
つまり、直近の手取り額の回復は、税負担という「一時的な逆風」が弱まったことによる影響が大きく、社会保険料という「構造的な向かい風」はむしろ強まっているというのが実態である。
実質賃金プラスの先に待つ「手取りの壁」
企業の持続的な賃上げ努力と物価上昇の鈍化が噛み合った結果、所定内給与QPIから見る実質賃金はプラス圏に浮上した。これは、デフレマインドの払拭に向けた大きな前進であり、経済全体にとっては紛れもない好材料である。
しかし、その恩恵は家計に十分に行き渡っていない。可処分所得の回復は、定額減税の反動増という一時的な下押し要因が薄れたことによる影響が大きく、実質的には依然としてマイナス圏にある。むしろ、賃上げに連動して負担が増え続ける社会保険料という構造的な重荷は、より一層家計にのしかかっている。
つまり、日本経済は実質賃金プラスという一つの峠を越えたものの、その先には社会保険料負担の増加という手取りの壁が待ち構えている。この壁を乗り越え、賃上げの果実を国民一人ひとりの可処分所得の増加に繋げない限り、本格的な個人消費の回復と経済の好循環を実現することは難しいと言えるだろう。

参照
総務省統計局. 消費者物価指数(2025年8月分). https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html(2025年10月14日参照)
厚生労働省. 毎月勤労統計調査 令和7年8月分結果速報. https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r07/2508p/2508p.html(2025年10月14日参照)