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- 源泉徴収票の電子交付とは?条件・手順・注意点を実務担当者向けに解説
年末調整シーズンが近づくたびに、数百人分の源泉徴収票を印刷・封入・配布する作業が人事部門の大きな負荷になっています。従業員数が多いほど紙の運用コストは比例して膨らむ一方、電子化の要件や従業員への説明方法がわからず、切り替えに踏み切れていない企業は依然として多い状況です。
本記事では、源泉徴収票の電子交付に必要な法的条件・具体的な方法・導入時の注意点を実務担当者向けに解説し、従業員からよく寄せられる「確定申告で使えるか」「転職先に提出できるか」といった疑問への対応方法まで一括して取り上げます。
目次
源泉徴収票の電子交付とは
源泉徴収票は、所得税法第226条に基づいて使用者が従業員に交付することが義務づけられた書類です。未交付や虚偽記載があった場合は所得税法第242条第6号により、1年以下の懲役または罰金が科される可能性があります(罰金額については最新の条文をe-Gov法令検索等でご確認ください)。
従来は紙による交付が原則とされてきましたが、平成17年度の税制改正により、一定の条件を満たすことで電子データによる交付、正式名称「給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供」が認められるようになりました。
制度の根拠となるのは所得税法施行規則第95条の2であり、国税庁は「給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供に関するQ&A」を公表し、法による提供の要件と手続きを詳しく案内しています。
▼参考:給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A|国税庁
要点を一言でまとめると、「紙で渡していた源泉徴収票を、条件を満たした電子的な方法に置き換えることができる制度」です。ただし、条件を満たした場合にのみ認められる制度であり、無条件に電子化できるわけではありません。
なお、「電子交付」と混同されやすい用語として「法定調書の電子申告」があります。こちらは税務署への提出方法に関するものであり、従業員への交付方法とは別の制度です。
2027年1月1日以降、前々年の法定調書が30枚以上の場合にe-Tax等での電子申告が義務化されますが(令和6年度税制改正)、これは本記事が扱う「従業員への電子交付」とは直接関係しません。なお、より具体的には「2025年(令和7年)中に提出する法定調書が種類ごとに30枚以上の場合、2027年提出分から電子申告が必須」となります。
電子交付が認められる方法の種類
国税庁のQ&Aでは、収票等の電磁的方法による提供と認められる手段として、主に以下の3種類が示されています。
- 電子メールを利用する方法(源泉徴収票のデータをメールに添付して送付する方法)
- 社内LANやインターネット等を利用して閲覧に供する方法(Webシステムへのアクセスによる方法)
- CD・DVDなどの記録媒体を交付する方法
このうち、現在の大企業で主流になっているのは2番目のWebシステム経由の方法です。クラウド給与システムやWeb給与明細システムにログインすることで、従業員が自分の端末から源泉徴収票を確認・出力できる仕組みが広く普及しています。社内LANだけでなくインターネット経由でアクセスできる環境を整備しているケースも多く、在宅勤務や多拠点展開の企業では特に親和性が高い選択肢です。
電子交付に必要な2つの条件
電子交付への切り替えには、法令上の2つの条件を両方満たす必要があります。どちらか一方を欠いた状態で運用を始めると法令違反になりうるため、導入前に内容をしっかり確認しておきましょう。
条件1:従業員から事前に同意を得る
電子交付を行うにあたって最初に満たすべき条件が、「受給者(従業員)からの事前承諾」です。国税庁のQ&Aにおける「基本的な事項」では、使用者が電子交付を行う前に受給者の承諾を得ることが必要とされています。
▼参考:1.基本的な事項|国税庁
承諾の取得方法は、電磁的方法(Webフォームへの入力等)または書面のいずれかで行います。その際、承諾を取り付ける前に「どのような電磁的方法を用いるか(使用するファイル形式や閲覧システムの種類・内容)」を受給者に明示することが求められます。電子交付に係る基本的な事項を事前に提示した上で同意を得る、という順序が法令上の要件になっています。
令和5年度税制改正による「みなし承諾」制度
令和5年度の税制改正により、給与所得の源泉徴収票および給与等の支払明細書については、承諾手続きが一部簡略化されました。具体的には、会社(支払者)があらかじめ「指定した期限までに承諾しない旨の回答がなければ承諾とみなす」旨を従業員に通知した上で、期限までに回答がなかった場合には承諾が得られたとみなすことができます(所得税法施行規則第95条の2)。大企業で全員から個別の同意書を収集する手間が軽減された改正ですが、「拒否する機会の提供」と「事前通知」が必須である点は変わりません。
なお、「退職所得の源泉徴収票」「退職手当等の支払明細書」「公的年金等の源泉徴収票」「公的年金等の支払明細書」はみなし承諾の対象外であり、これらについては引き続き個別の承諾取得が必要です。
また、注意していただきたいのは、同意を得ていない従業員には電子交付ではなく紙での交付が引き続き必要だという点です。「電子化に切り替えたのだから全員電子で渡す」という運用は認められません。同意者と非同意者を区別して管理する仕組みを整備することが、実務上の必須要件です。
条件2:電子交付の技術的要件を満たす
事前承諾と並んで求められるのが、電子交付に用いるシステム・手段が技術的要件を満たしていることです。国税庁の回答ページには、受給者が使用する端末の画面への表示ができること、および書面への出力ができることの2点が要件として示されています。
加えて、Webシステム等でデータを保存・閲覧させる方法(直接送信や記録媒体の交付の場合を除く)では、電子交付を行ったことを受給者に通知することも必要です。
つまり、従業員が自分の端末で源泉徴収票の内容を画面上で確認でき、かつ必要に応じて紙に印刷できる状態でなければなりません。データを暗号化したまま閲覧できない形で送付したり、印刷を禁止する設定にしたりすることは要件を満たさない可能性があるため注意が必要です。
様式については、国税庁が定める所得税法施行規則別表第6に規定された様式と完全に一致している必要はありません。ただし、源泉徴収票に記載すべき事項(支払金額・源泉徴収税額・各種控除額等)をすべて網羅していることは必須です。自社システムで出力するPDFが記載事項を漏らさない設計になっているかどうか、導入前に確認しておくことをおすすめします。
電子交付のメリット
条件を満たして電子交付に切り替えると、企業側・従業員側の双方にメリットが生じます。特に従業員数の多い大企業では、コスト削減効果が顕著に現れやすい点が特徴です。
企業(人事・給与担当)のメリット
電子交付への切り替えによって、人事・給与担当部門が享受できる主なメリットは3点あります。
1点目は印刷・封入・郵送コストの削減です。従業員が1,000名いれば1,000枚分の用紙・封筒代と、封入・仕分けにかかる人件費が毎年発生しています。電子化によってこれらのコストを大幅に圧縮できます。
2点目は事務負担の軽減です。印刷・封入作業そのものはもちろん、配布ミス・未着問い合わせへの対応、住所変更が間に合わなかった従業員への再送付といった付帯業務もなくなります。年末調整の繁忙期に作業が集中する大企業ほど、この削減効果は大きくなります。
3点目は保管コストの削減です。紙の源泉徴収票は保存期間分の書類スペースと管理コストが生じますが、電子データはシステム上で一元管理でき、検索・再発行の対応も格段に速くなります。
ペイロールの導入事例として、IT企業の株式会社アイネットでは給与計算業務のBPO委託を通じてペーパーレス化を含む業務最適化を実現しています。
▼参考:導入企業インタビュー「株式会社アイネット様」|株式会社ペイロール
従業員のメリット
従業員側のメリットとして最も大きいのは、いつでも・どこからでも確認・出力ができる利便性です。紙の場合は紛失すると再発行依頼が必要になりますが、Webシステム上の電子データであれば何度でも取得できます。
また、会社が交付予定日や交付開始日をシステム上で通知する設定にしておけば、従業員は受け取り忘れを防ぎやすくなります。大企業で多数の従業員が一斉に交付を受ける際、通知設計のひと工夫が問い合わせ件数を左右します。
確定申告をe-Taxで行う場合は、XMLデータを活用した入力の省略化が可能になるケースもあります。年末調整後に確定申告が必要な従業員(副業所得のある方や医療費控除を受ける方等)の手続きが簡略化されるため、従業員満足度の向上にもつながります。
電子交付された源泉徴収票の使いどころと従業員への説明ポイント
電子交付に切り替えると「確定申告で使えるのか」「転職先に出せるのか」「印刷はどうすればいいか」という質問が増えることが予想されます。担当者としてあらかじめ回答を用意しておくと、問い合わせ対応コストを抑えられます。
確定申告での取り扱い
確定申告においては、平成31年4月1日以後の申告分から源泉徴収票の原本添付が不要とされています(国税庁「確定申告の手引き」等。最新の運用は国税庁サイトでご確認ください)。電子交付を受けた源泉徴収票をプリントアウトしたもの、あるいは画面で内容を確認しながら申告書に転記する方法のいずれも利用できます。
e-Taxで確定申告する場合、システムによってはXMLデータを取り込んで申告書を作成できる機能が提供されているため、事前に確認しておくと参考になります。
従業員から「電子でもらった源泉徴収票で確定申告できますか?」という問い合わせが来た場合の回答例をご紹介します。
「電子交付で受け取った源泉徴収票は確定申告に利用できます。画面上で内容を確認し確定申告書に転記するか、PDFをプリントアウトして手元で参照してください。原本の添付は原則不要です。e-Taxをご利用の場合はXMLデータの活用もご確認ください。」
転職先への提出と原本対応
「転職先に源泉徴収票を提出しなければならないが、電子データしかない」というケースは実務でも起こりえます。転職先の企業が書面(紙)での提出を求める場合、電子データをそのままメールで送付しても受け付けてもらえないことがあります。
その場合の対応は、PDFをプリントアウトして持参・郵送することです。電子交付の源泉徴収票は法令上の要件を満たして発行されたものであり、印刷したものを転職先に提出することは一般的に問題ないと解釈されていますが、転職先の受け入れ方針によっては個別確認が必要になる場合もあります。
また、所得税法施行規則では、受給者から書面による交付の請求があった場合、使用者はこれに応じる義務があるとされています(国税庁Q&A「書面交付の請求」関連。最新条文はe-Gov法令検索等でご確認ください)。電子交付に切り替えた後であっても、従業員から「紙で欲しい」という請求があれば書面での交付を拒否することはできません。この点を社内ルールとして明文化しておく必要があります。
コンビニ印刷・自宅印刷の方法
Webシステムから取得したPDFファイルをコンビニの複合機や自宅のプリンターで印刷することは、技術的には一般的な手順で行えます。コンビニ印刷の場合はUSBメモリへの保存またはネットワークプリントサービスの利用が代表的な方法です。印刷したものは「原本」ではありませんが、確定申告での参照や転職先への提出資料として活用できます。
セキュリティ面についても一言添えておく必要があります。源泉徴収票には氏名・住所・収入金額等の個人情報が記載されているため、共有PCやUSBメモリにデータを保存したまま放置しない、コンビニ印刷後にデータを削除するといった基本的な取り扱いを従業員に周知することが望ましいです。
電子交付を導入する際の注意点と対策
メリットや活用方法を把握した上で、見落としがちな注意点も整理しておく必要があります。同意取得・セキュリティ・既存システムとの相性という3つの観点から、導入前に確認すべきポイントをまとめます。
従業員の同意なしに切り替えない
最も重大なリスクは、従業員の同意を確認しないまま電子交付に移行することです。同意を得ていない従業員への電子交付は所得税法施行規則上の要件を満たさず、法令違反になりえます。「手続きが大変だから同意書は省略した」「システムに登録されている従業員は全員同意とみなした」という処理は認められません。
大企業では従業員の異動・入退社が頻繁に発生するため、同意取得の記録(誰がいつ同意したか)を名簿・履歴として保存する仕組みを整備することが運用上の要となります。同意管理が属人的なExcel管理になっていると、担当者の交代時に引き継ぎが困難になるリスクもあります。
セキュリティ対策とデータ改ざん・漏洩リスク
電子化によって生じるリスクとして、データの改ざんや不正アクセスによる情報漏洩が挙げられます。源泉徴収票には給与情報・扶養情報など機密性の高いデータが含まれているため、システムへのアクセス権限の適切な設定・操作ログの保存・通信の暗号化対応(HTTPS/TLS等)が最低限の対策として求められます。
具体的なシステム要件やセキュリティ基準については、システム担当部門・専門家への確認をおすすめします。国税庁のQ&Aも要件確認の解説として参考になります。
既存システムとの連携・相性確認
源泉徴収票の電子交付を実装するには、現行の給与計算システムや年末調整システムが電子交付機能に対応しているか、または外部のWeb給与明細システムと連携できるかを事前に確認する必要があります。
特に、オンプレミス型の旧システムを長年使用している大企業では、Web給与明細システムやクラウド給与システムへの移行、または連携設定の追加が必要になるケースが多い傾向があります。年末調整の業務フロー全体を見渡した上で、どこで電子交付を実現するかを設計することが、スムーズな導入への近道です。
大企業が電子交付を本格運用するために考えるべきこと
電子交付の導入は、ゴールではなく毎年繰り返す運用の始まりです。従業員規模が大きいほど、仕組みとして回せる体制を整えることが重要になります。自社で対応しきれない場合の外部委託という選択肢も含めて考えておきましょう。
従業員規模が大きいほど「仕組み化」が重要になる
従業員800名以上の企業で電子交付を運用するには、同意取得・交付通知・紙対応の例外管理・従業員からの問い合わせ対応という複数のフローを同時並行で管理する体制が必要になります。
これらを少人数の担当者が個別に対応しようとすると、業務が属人化しやすくなります。担当者が退職・異動した場合に引き継ぎが追いつかず、次の年末調整シーズンに業務が滞るリスクは現実的な問題として各社で発生しています。「電子交付の運用担当者が実質一人しかいない」という状況は、給与計算全体の属人化リスクと同根の問題として捉えておく必要があります。
また、令和5年度改正で「みなし承諾」の仕組みが導入されたことにより、大企業での同意取得の実務負荷は軽減されました。ただし、みなし承諾の対象は給与所得の源泉徴収票・給与等の支払明細書に限られます。一方で、承諾拒否の管理・新入社員対応・退職者管理など、継続的な台帳整備の重要性は変わりません。
給与計算BPOという選択肢
電子交付の技術的な設定・従業員への通知・同意管理・問い合わせ対応まで含めて外部に委託できる「給与計算BPO」という選択肢があります。自社でシステムを構築・運用するのではなく、業務プロセスごとアウトソーシングする形です。
先述の株式会社アイネットの事例では、ペイロールへの給与計算BPO委託を通じてペーパーレス化を含む業務最適化を実現しており、システム導入だけでなく運用レベルでの課題解決が図られています。
株式会社ペイロールは給与計算BPO専業として25年以上の実績を持ち、123万人以上・279社以上の受託実績、契約更新率99.7%という数値を公表しています。国際的な監査基準であるISAE3402/SSAE18の監査レポートを取得しており、内部統制の整備を求める上場企業・大手企業との相性が高い点も特徴です。「電子交付だけを自社でなんとかしたい」という局所的な課題なのか、「給与計算業務全体の運用体制を見直したい」という段階にあるのかによって選択肢は変わってきますが、BPO委託はその後者に対する有力な解といえます。
まとめ
ここまで、電子交付の法的根拠・必要条件・メリット・従業員対応・注意点・大企業向けの運用体制について解説してきました。最後に、実務担当者として押さえておきたいポイントを3点に整理します。
- 源泉徴収票の電子交付は、「事前の従業員同意」(令和5年度改正によりみなし承諾も可。ただし給与所得の源泉徴収票・給与等の支払明細書が対象で、退職所得の源泉徴収票等は対象外)と「技術的要件(映像面への表示・書面出力が可能であること・交付通知)」という2つの条件を満たすことで合法的に実施できます。コスト削減と従業員利便性の向上を両立できる制度として、所得税法施行規則第95条の2および国税庁のQ&Aに基づいた正確な理解が前提となります。
確定申告では原本添付が原則不要であり、電子交付を受けた源泉徴収票のプリントアウトは転職先への提出などにも活用できます。ただし、従業員から書面交付の請求があった場合には応じる義務があります。従業員からの問い合わせが増えることを見越して、よくある疑問への回答をあらかじめ準備しておくと問い合わせ対応コストを下げられます。
従業員規模が大きい企業では、同意管理の仕組み化・例外的な紙対応の運用・セキュリティ対策・既存システムとの連携確認という複合的な課題が同時に生じます。これらを自社の少人数体制で担うリスクを踏まえると、給与計算BPOへの委託は運用全体を安定させるための現実的な選択肢となります。
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