人的資本経営や戦略人事への関心が高まる一方で、「人事制度を変えたいが、なかなか前に進まない」と感じている企業も少なくありません。
本連載では、株式会社people first代表取締役の八木洋介氏に、これからの日本企業に求められる人事のあり方について伺います。全3回の第2回となる今回は、「戦略人事と“制度疲労”の本質」をテーマに、戦略人事と人事戦略の違いや、日本企業の人事変革が進みにくい背景、これから人事に求められる役割についてお聞きしました。
プロフィール
八木 洋介 氏
株式会社people first 代表取締役
京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社、GEなどを経て、株式会社LIXILグループ執行役副社長に就任。CHROとして人事変革、グローバル化、リーダー育成、ダイバーシティ推進などを担う。2017年に株式会社people firstを設立。著書に『戦略人事のビジョン』がある。
ここからは、八木氏へのインタビューを通じて、戦略人事の本質と、日本企業が抱える“制度疲労”について考えていきます。
目次
01. 「戦略人事」と「人事戦略」の違い
まず、「戦略人事」と「人事戦略」の違いについて教えてください。
戦略人事とは、企業が直面している重要な経営課題に対して、人事が重点的に取り組むことです。例えば、
- グローバル化
- DX(デジタルトランスフォーメーション)
- 経営人材不足
- 組織変革
といったテーマがあります。企業として「ここを変えなければならない」という課題に対して、人事も経営と一体となって解決に向かう。それが戦略人事です。
一方で、人事戦略はもっと広い概念です。人事には、
- 採用
- 配置
- 評価
- 育成
- キャリア形成
- エンゲージメント向上
など、さまざまな領域があります。戦略人事として重点テーマに取り組むことは重要ですが、それらを支える制度や仕組みもすべてつながっています。その全体を設計してこそ、本当の意味での人事戦略になるのではないでしょうか。
02. なぜ人事変革は進まないのか
戦略人事を目指していても、変革が進まない企業は少なくありません。その理由は何でしょうか?
大きな理由の一つが、人事制度同士が複雑につながっていることです。例えば、ジョブ型人事制度を導入しようとした場合、本来の考え方は非常にシンプルです。「ポジションに最適な人材を配置する」しかし実際には、
- 人事が異動を調整する
- 不満が出ないように配慮する
- 全員が納得できる運用を目指す
といった形になっているケースも少なくありません。さらに、ジョブ型人事制度を本格的に導入しようとすると、
- 採用
- 評価
- 報酬
- 異動
- 育成
まで含めて見直す必要があります。制度はすべてつながっているため、一部だけを変えることが難しく、それが変革を進めにくくしているのです。
03. “制度疲労”の本質とは
制度改革まで踏み込む必要があるということでしょうか?
そう考えています。例えば、「マーケティングを強化したい」と企業が考えたとします。しかし、本当に必要な人材を採用しようとすると、「現在の給与制度では、その報酬は出せません」という壁にぶつかることがあります。そんなときに考えるべきなのは、「制度を守りたいのか、会社を変えたいのか」という問いです。制度は本来、会社を成長させるために存在するものです。しかし、日本企業では制度を維持すること自体が目的になってしまっているケースもあります。それこそが、“制度疲労”の本質だと言えるでしょう。
04. これからの人事に求められる役割
人事制度そのものも見直していく必要があるのでしょうか?
現在の日本企業では、
- 採用は人事部門
- 異動も人事部門
- 評価調整も人事部門
という形で、人事が大きな権限を持っていることが一般的です。しかし、本当に組織や社員を理解しているのは現場のマネージャーです。本来であれば、
- どのような人材が必要か
- どう育成するか
- 誰を配置するか
を現場が主体的に考えるべきではないでしょうか。人事の役割は、人を管理することではありません。「どうすれば人が活きるのか」を示し、支援することこそが重要なのだと思います。
05. 日本企業は本当に変革が苦手なのか
日本企業は変革が苦手だと言われることもあります。
私は必ずしもそうは思いません。むしろ、日本の人事担当者は高い知見と能力を持っていると感じています。ただ、
- 過去の成功体験
- 制度へのこだわり
- 周囲と足並みを揃えながら進める組織文化
が強く根付いています。その結果、
- 制度を守ること
- 前例を崩さないこと
に意識が向きやすくなっているのです。しかし、本当に重要なのは、「何を実現したいのか」という目的です。目的から逆算して考えれば、取るべき施策は意外とシンプルになります。
06. これからの人事に必要なこと
最後に、これからの人事に必要なことを教えてください。
制度を守ることではなく、「会社として何を実現したいのか」を起点に考えることだと思います。そして、その実現のためには、
- 採用
- 配置
- 評価
- 育成
- 報酬
をバラバラの制度として考えるのではなく、一体の仕組みとして捉える必要があります。今、多くの企業がその転換点に立っています。制度を維持することが目的ではなく、企業の成長を実現するために制度をどう活用するのか。それこそが、これからの人事に求められる考え方なのではないでしょうか。
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人事戦略・人的資本経営
戦略人事と“制度疲労”の本質を語る
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人事労務DX
なぜBPOとタレントマネジメントシステムを同時に導入する企業が増えているのか
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人事戦略・人的資本経営
これからの日本企業に求められる人事とは