給与計算アウトソーシング

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給与計算のアウトソーシングで生まれた人材をどう活かす?リスキリングと行動変容まで考える

給与計算をアウトソーシングすれば、人事部門の業務負荷を軽減できます。一方、実際にアウトソーシングを検討する企業からは、「給与業務を外部委託した後、これまで担当していた人材をどう活用すればよいのか」という悩みも聞かれます。

業務を外部委託すること自体をゴールにすると、こうした疑問は残ったままです。重要なのは、給与業務から生まれた時間や人的リソースを、次にどの仕事へ振り向けるのかまで考えることです。

株式会社ペイロール、株式会社SIGNATE様、エグゼクティブコーチ株式会社様によるウェビナーでは、「業務を外部委託する」「新しい役割に必要な能力を身につける」「実際の行動へつなげる」という3つの観点から、人事部門のこれからの役割について議論しました。

本記事では、その内容をもとに、給与計算のアウトソーシング後の人材活用をどのように考えればよいのかを整理します。

給与計算のアウトソーシングは「外部委託して終わり」ではない

給与計算のアウトソーシングを検討するとき、まず目が向きやすいのは「どの程度業務を削減できるか」「どこまで外部に任せられるか」といった点ではないでしょうか。

しかし、業務を削減できたとしても、そこで生まれた余力をどう活かすかが決まっていなければ、人事部門そのものの変革にはつながりません。

ウェビナーでは、業務を外部委託できない理由の一つとして「出口戦略が描けていないこと」が挙げられました。業務を外部委託した先で何をするのか、新しい仕事を誰に任せるのかまで見通せていないことで、外部化そのものに踏み切れないケースがあるという指摘です。

「外部委託した仕事と、その後に何をやるのかということは常にセットで語られるべき」

株式会社ペイロールの濱野は、講演の中でこのように説明しています。

つまり、給与計算のアウトソーシングを単なる「業務削減」として考えるのではなく、人事部門の仕事を組み替えるきっかけとして捉えることが重要です。

 

なぜ「外部委託した後の人材活用」が決まらないと、アウトソーシングが進まないのか

給与業務を外部へ任せたいと考えていても、なかなか意思決定できない企業もあります。

ウェビナーでは、その背景を「外部委託の決断を阻む3つの構造」として整理しました。

今の運用でも回っている「現状維持バイアス」

一つ目は、今のやり方でも業務自体は遂行できているため、あえて変える必要性を感じにくいことです。

担当者の負荷が高かったとしても、毎月給与は支払われています。「今できているのだから、このままでよい」という判断になり、改革が先送りされてしまいます。

「自社の業務は特殊」という現場依存

二つ目は、実務を知る担当者の判断に依存してしまうことです。

給与業務には企業ごとのルールやイレギュラーが存在します。そのため、現場から「この処理は特殊だから外せない」「単純な業務ではない」という声が出れば、外部化の判断を止めてしまうことがあります。

ウェビナーでも、現場からの「簡単に外すなんて無理」という反応によって、外部委託するかどうかの判断そのものを現場へ委ねてしまうケースが指摘されています。

外した後を描けていない「出口戦略」の不足

三つ目が、今回の記事で特に重要な「出口戦略」です。

仮に業務を外部委託したとしても、「これまで給与を担当していた人には、次に何を任せるのか」「そこで生まれた時間を、何に使うのか」が決まっていなければ、人員配置という別の問題が生まれます。

その結果、「そこまで決まっていないのであれば、今のままでよい」という現状維持につながってしまいます。

給与アウトソーシングを進めるためにも、外部委託する業務を決めることと、外部委託した後の役割を決めることを同時に進める必要があります。

まずは人事業務を仕分ける|何を外し、何を人に残すのか

では、給与業務から生まれた人材や時間を、どの仕事へ振り向ければよいのでしょうか。

その前提となるのが、人事業務そのものの仕分けです。

人事業務は「定型業務か、非定型業務か」という軸で整理されることがあります。しかしウェビナーでは、それだけでは最適な担い手を判断しにくいとして、2つの観点が提示されました。

軸1:業務の複雑性・新規性

一つ目は、「ルールや過去のデータだけで答えを出せるか」という観点です。

既存のルールやデータにもとづいて処理しやすい仕事は、システムやAIによる代替・支援を検討しやすくなります。

一方で、前例がない、複数の事情が絡む、データだけでは答えが決まらないといった業務では、人による判断の重要性が高まります。

軸2:人が行う必要性・感情を扱う必要性

もう一つは、「正しい答えを出すだけで、人は動くのか」という観点です。

人事の仕事には、従業員との対話や合意形成、関係者間の調整など、合理的な答えを提示するだけでは成果につながらないものがあります。

こうした仕事では、相手の状況や感情を理解しながら意思決定を促す、人ならではの介在価値が高まります。

この2軸を組み合わせて、AI・システム・外部・人のどこに仕事を任せるかを考えていきます。

登壇資料では、給与計算・給与関連業務などは外部委託やAI活用の対象として整理される一方、部門人事戦略、タレントマネジメント、事業リーダーへのコーチング、全社人材戦略や人事制度企画などは、人が中心となって担う業務として整理されています。

大切なのは、「外注できるかどうか」だけで判断しないことです。人だからこそ価値を出せる仕事を明確にしたうえで、それ以外の業務をAI・システム・外部へ移していくという順序で考える必要があります。

給与計算のアウトソーシングで生まれた余力を、何に振り向けるのか

給与アウトソーシングによって生まれた時間をどう使うかを考えるうえで、参考になる事例があります。

ウェビナーでは、ガソリンスタンドを展開する企業の事例が紹介されました。

同社ではもともと給与業務を内製していましたが、システムを継続して保守することが難しくなったことなどを背景に、給与業務のアウトソーシングを決断しました。

その結果、支店・業務課では人員体制を約4割スリム化。本社人事では給与担当者のオペレーション負荷を軽減し、より上流の仕事へ時間を振り向けられるようになりました。

特徴的なのは、単に「給与にかかる工数が減った」で終わっていないことです。

支店では、給与関連業務の負担が減ったことで、高卒採用へ時間を振り向けました。高校へ自社をアピールし、就職を希望する生徒に自社を紹介してもらえるような関係性を構築した結果、一定数の高卒人材の確保につながったと紹介されています。

つまり、変わったのは業務量だけではありません。

「人が何を担うか」そのものが変わったということです。

給与アウトソーシングを検討するときは、「何人分の工数を減らせるか」だけではなく、「そこで生まれた時間を何へ再投資すれば、自社にとってより大きな価値につながるか」まで考えることが重要です。

新しい仕事を任せるなら、リスキリングを「業務起点」で考える

ただし、給与業務を担当してきた人を別の業務へ配置すれば、その日から新しい役割で活躍できるとは限りません。

そこで必要になるのがリスキリングです。

一方、研修を実施すればよいわけでもありません。

株式会社SIGNATE様の講演では、従来型の座学中心の教育が陥りやすい問題として、3つの「罠」が紹介されました。

実務との乖離

全社共通の研修は、どうしても一般的な内容になりやすくなります。

しかし、実際の業務は部門や担当者によって異なるため、一般論を学んでも自分の仕事へ落とし込めず、「結局使えない」となってしまいます。

出口なき学習

知識やスキルを習得すること自体が目的になり、「その知識をどの業務で使うのか」という出口が設計されていないケースです。

現場との分断

新しいツールやAIを導入しても、現場の既存業務に組み込まれていなかったり、現場が必要性を感じていなかったりすれば、実務では使われません。

SIGNATE様は、この3点を「座学偏重学習の3つの罠」と整理しています。

そこで重要になるのが、「何を学ばせるか」から考えるのではなく、「どの業務を変えたいのか」から考えることです。

「リスキリング成功の肝はスキルより業務の解像度」

ウェビナーでは、このような考え方が示されました。

まず自社の業務を細かく理解・可視化し、その中から変えたい業務を明確にする。そのうえで、必要なAI活用やスキルを学ぶという順番です。

給与アウトソーシング後の人材育成についても、「空いた人材に何か研修を受けてもらう」のではなく、「次に担ってもらいたい仕事を決め、その仕事に必要な能力を身につけてもらう」と考える必要があります。

リスキリングを実務につなげるには、人事自身が成功体験をつくる

AI活用におけるリスキリングを実務につなげるうえで、SIGNATE様が提唱しているのが、人事自身をAI活用の「クライアントゼロ」とする考え方です。

まず人事部門が自らの業務を効率化・高度化し、その経験をもとに、全社へAI活用を広げていくという考えです。

大きな流れは、「可視化 → 実践 → 波及」の3段階です。

さらに実務レベルでは、次の4つのステップで整理されています。

  1. 業務棚卸
  2. 事前学習
  3. AX実践
  4. 定着支援

まず現在の業務を棚卸しし、どこにAIを活用できる余地があるかを確認する。次に必要な基本知識を学び、実際の自分たちの業務を題材に改善方法やプロンプトを作る。そして、それを仕事の中で試し、改善できた方法を新しい業務の型として定着させていきます。

重要なのは、研修と実務を切り離さないことです。

 

スキルを身につけても、人の行動が変わるとは限らない

ここまで、「何の仕事を外部委託するか」「次にどの仕事を任せるか」「そのために何を学ぶか」を整理してきました。

しかし、もう一つ考えなければならない問題があります。

それは、知識やスキルを身につけても、必ずしも人の行動が変わるわけではないということです。

エグゼクティブコーチ様の講演では、知識やスキルが不足している場合と、態度や価値観が行動を阻んでいる場合を分けて考える必要性が示されました。

「知らない」「やり方が分からない」であれば、知識をインプットしたり、反復して練習したりすることで対応できます。

一方で、

  • 自分にはうまくできそうにない
  • 自分らしくない
  • その仕事をやりたくない

といった状態では、知識やスキルを増やすだけでは行動につながりません。

給与業務を長年担当してきた人に、これからは採用・企画・従業員との対話・AIを活用した業務改善などを担ってもらう場合、本人にとってはこれまでとは異なる行動を求められることがあります。

その際に必要なのは、価値観そのものを否定することではなく、新しい役割を担うために、これまでとは違う行動へ一歩踏み出せるよう支援することです。

リスキリングを「知識を与える施策」で終わらせず、「実際の行動が変わったか」まで見ることが重要になります。

人材を新しい役割で活かすには、管理職の関わり方も変える

さらに、人材活用を本人だけの問題にしないことも重要です。

エグゼクティブコーチ様では、中間管理職を「経営と現場のHUB」と位置付けています。

経営から示された戦略や方針を理解し、現場へ落とし込む。一方で、現場で発生する課題や支援ニーズを受け止め、実行を支える。中間管理職はその両者をつなぐ役割を担っています。

給与アウトソーシングによって担当者の役割を変更するときも、「次からこの仕事を担当してください」と配置を変えるだけでは十分ではありません。

新しい役割の目的を共有し、実践を見ながらフィードバックし、必要に応じて本人の挑戦を支える。こうした管理職の関わりまで含めて考える必要があります。

給与アウトソーシング後の人材活用は、

業務を外部委託する → 人材を再配置する → 必要な能力を身につける → 実務で試す → 行動変容を支援する

という一連の取り組みです。

給与業務を外部に任せることで、人事部門に時間や人的リソースが生まれる。その余力を、人にしかできない仕事へ振り向けることができれば、アウトソーシングは単なる業務効率化ではなく、人事部門そのものの役割を変えるきっかけになり得ます。