人事変革未来フォーラムVol.1 経営と事業を動かす、攻めの人事改革~信頼されるビジネスパートナーとしての人事を創る~
経営と事業を動かす、攻めの人事変革
~信頼されるビジネスパートナーとしての人事を創る~
2018年4月18日、株式会社ペイロールが主催する「人事エグゼクティブ、経営層のための組織・人事変革未来フォーラム Vol.1」がベルサール東京日本橋で開催されました。
本フォーラムは、変化の激しい現代において経営目標を実現するための組織、人事の変革を、人事部門のエグゼクティブ、経営層の方々とともに考えていくことを目的としてスタート。
第1回となる今回は、『人事評価はもういらない 成果主義人事の限界』(ファーストプレス刊)の著者、松丘啓司氏の講演を皮切りに、HRエグゼクティブフォーラム代表の楠田祐氏とサノフィ株式会社の新田二郎氏による「経営と事業を動かすHRビジネスパートナーとは」と題したトークセッション、さらに、楠田氏をファシリテーターとして、松丘氏、新田氏と参加者によるラウンドテーブルが実施されました
日本にも波及し始めた、
パフォーマンスマネジメント変革のトレンド
従来の目標管理制度を廃止し始めたアメリカ企業
今、アメリカでは、従来、主流となっていた年次評価を前提とする目標管理制度を見直し、新たなパフォーマンスマネジメントへと大きく変革する企業が非常に増えています。
企業の人材・組織変革の支援に長年携わっているエム・アイ・アソシエイツの松丘氏は、アメリカ企業において従来の目標管理がどのように変わってきたのかを、次のように説明しました。
○従来の目標管理の典型
・年度(半期)目標の設定
・中間レビュー
・年次(半期)評価(レーティングに基づく等級・報酬決定)
・期末フィードバック
○パフォーマンスマネジメントのトレンド
・リアルタイムの目標設定(柔軟な時間軸)
・リアルタイムフィードバック
・年次(半期)評価廃止(No Ratings)
・リアルタイムフィードバック(一部は期末フィードバックも存続)
松丘氏:
「パフォーマンスマネジメントとは、簡単に言えば、個人のパフォーマンスを高めることによって組織のパフォーマンスを高めようとするマネジメント手法です。パフォーマンスマネジメントへの変革のトレンドは、現在、日本でも少しずつ起こり始めている状況です。」
背景にあるのは経営パラダイムの大きな変化
こうした変革が行われている背景には、VUCAの進展に伴う経営パラダイムの変化があります。VUCAとは
(1)Volatility、(2)Uncertainty、(3)Complexity、(4)Ambiguityの頭文字をつなぎ合わせた造語で、複雑化して将来予測が困難な現在の経済社会環境を示すキーワードとして使われています。
(1)Volatility(変化のスピードの増大)
松丘氏:
「現在は変化のサイクルがきわめて短く、テクノロジーの進展が短サイクル化をさらに加速しています。まず、それを前提に経営を行わなければなりません。」
(2)Uncertainty(結果の想定困難さ)
松丘氏:
「過去には常識だったことが必ずしも将来そうならないことが当たり前になってきています。今までこういうやり方でやってきたからといった考え方で意思決定を行うと、間違う危険性があるのです。」
(3)Complexity(相互関連する変数の増加)
松丘氏:
「Complexityは複雑さ、多様性を意味します。意思決定を行う際に、多様な視点や価値観が重要であるとともに、社員一人ひとりの違いや個性をいかに引き出し、伸ばすかが経営や人事のテーマになってきています。」
(4)Ambiguity(意味合いやトレンドの不明瞭さ)
松丘氏:
「論理的に説明しにくいことが多く、感覚的なことがイノベーションのきっかけになるようなケースもたくさん生まれています。理屈で考えるとうまくいくわけがないからやめておこうといった意思決定は、間違える可能性があります。」
このように、マネジメントの前提となる経営パラダイムが変わってきていると、松丘氏は指摘しました。
ウォーターフォール型vsアジャイル型
では、マネジメント自体はどう変わってきているのでしょうか。
松丘氏は「ウォーターフォール型」から「アジャイル型」へというキーワードを用いて、次のように説明しました。
○ウォーターフォール型の目標管理
・日本では、まだほとんどの企業が行っている。
・計画通りに着実に実行していることが大事だとされるマネジメントスタイル。
松丘氏:
「特に日本企業の場合、国内事業のウェートがまだ大きいことも多く、レガシービジネスの目標を達成していくために、中期経営計画における事業計画に沿って全社の目標をチームの目標へ、個人の目標へとブレークダウンし、達成度を管理していくマネジメントスタイルが取られてきました。この達成度を評価と結びつけたのが成果主義人事です。」
○ウォーターフォール型の目標管理によって強化されるマインド・風土
・目標は上から降りてくるので受け身になりがちであり、達成が難しそうなことにチャレンジしない安全志向にもなりがち。
・降りてくる目標が毎年似通ったものであるため、同質的な考えや行動になりがち。
・目標が上からブレークダウンされてくるので、下の方に行くほど部分最適的になり、関心があるのは自分のチームや個人の目標だけといったサイロ化・個人主義に陥りがち。
松丘氏:
「これまでの日本企業は、事業があまり成長しない環境下で売上を上げていくため、管理型のマネジメントスタイルを続けてきた面があります。しかし時代は変わりました。」
○アジャイル(機敏)なパフォーマンスマネジメント
・VUCAの環境下では、ビジネスを取り巻く環境は素早く変化しており、勝てる方程式が決まっているわけではない。
・そこで、現場が市場の声を聞きながら自律的に実験と検証を繰り返し、その中で学んだらすぐ次のトライアンドエラーに移るといった動きが必要だという考え方に基づく、アジャイル(機敏)なパフォーマンスマネジメントが求められてきた。
松丘氏:
「VUCAの時代には企業はイノベーションを創出して成長していかなければなりませんが、ウォーターフォール型の目標管理によって強化されるマインド・風土は、イノベーションの阻害要因になります。
これに対し、アジャイルなパフォーマンスマネジメントは、自律的でチャレンジ精神に富み、多様性のあるチームが、部門の壁を越えてコラボレーションしながらイノベーションによる価値創造を行い、企業や事業のビジョンを達成していこうとするものです。」
まず人事自身がアジャイルなHRに変わる
マネジメントの変化に伴い、人事に求められる役割も次のように変化すると松丘氏は述べました。
○ウォーターフォール型の目標管理=制度の番人
・本社から統制
・時間をかけても抜け漏れのない完ぺき性を追求
・精緻なルールの運用を厳格に「管理」
○アジャイル(機敏)なパフォーマンスマネジメント=事業部門のEmpowerment/Enablement
・現場で成果創出
・半熟の状態で導入し運用しながら改良
・事業部門のパフォーマンス向上を実地で「支援」
松丘氏:
「VUCAの時代に、従来のようにひとつの制度を見直すのに何年もかけていては、その間にビジネスが終わってしまいます。したがって、半熟の状態で制度を導入し、運用しながら改善していくというやり方が求められます。
いずれにせよ、人事が率先して変わらなければ現場は変わりません。まず人事自身がアジャイルなHRへとマインドを変えることが重要です。」
パフォーマンスマネジメントの変革と
HRトランスフォーメーションは車の両輪
これからの人事が、ビジネス部門をHRの面から戦略的に支援するHRビジネスパートナーとなるためには、CoE(Center of Excellence,Expertise)としてHRに関する専門性を提供する機能と、HR関連の業務処理を効率的に遂行するHRシェアードサービス機能を確立することによって、オペレーショナルな業務を切り離しておくことが前提になると松丘氏は述べました。
とはいえ、単に体制を構築しただけで、HRビジネスパートナーを機能させることは困難です。
HRビジネスパートナーモデルへの変革課題
○実際にどのような仕事に取り組めばよいのかがわからない
○ビジネスパートナーおよびチェンジマネジメントのスキル・ノウハウ不足
○事業部門メンバーとのプロジェクト経験不足
松丘氏:
「経験する場がなければ、人事の方々がHRビジネスパートナーとして現場に入り、現場の風土やマインドを変え、一緒に現場のパフォーマンスを高めていこうとしても、なかなかできないのが実情です。」
パイロットアプローチの取り組みからスタートを
松丘氏は、まず社内の一部門をパイロット部門として変革を実践し、ノウハウやアセットを蓄積した上で、そこでの成功事例を武器に全社展開していく段階的アプローチが有効であると述べ、具体的なプロセスを紹介しました。
○ワークショップの実施(パイロット部門のコアメンバーが参画。HRがファシリテーションを行う)
・部門のパフォーマンス向上を阻害している要因を、議論を通じて明確化
・改革のアイデアを検討
・アクションプランを策定
○取り組み例
・特区制度の設計(目標設定、評価、ピープルレビュー、1on1など)
・マネジャー向けピープルマネジメント(1on1)研修の実施
・1on1の導入~定着化
・HRテクノロジーの活用
・効果の定点観測(パルスサーベイ)
松丘氏:
「私はいくつかの日本企業の人事・事業部門からこうしたことをやっていきたいとご依頼を受け、お手伝いをしています。このように人事の方々が変わることで、人事が事業部門のビジネス成果に直接貢献できるようになり、人事のキャリア拡大が実現されていくということを強く感じています。」
松丘氏による講演は、今後の企業の持続的成長のための新たな人材マネジメントやHRBPへの変革に関心を寄せる人事部門のエグゼクティブ、経営層の方々にとって、貴重且つ示唆に富むものでした。
また、講演後に行われたラウンドテーブルでも、話題となったのは、HRBPをどのように実現すればよいかという実践的なテーマ。
「HRBPを実現している企業では、給与計算などのノンコア業務をいち早くアウトソーシングしている。それによってコア業務に集中できる体制を構築し、生産性向上にもつなげている」
という有益な事例が紹介され、HRBPの実現に至っていない企業の参加者からは、今後検討を進めていきたいという積極的な声が挙がっていました。